タラバガニはカニ?ヤドカリの仲間?
最終更新日:2025-12-29
筆者:kani-tu.com カニ通販編集部(市場・加工場取材歴10年。実地でタラバの甲羅裏や脚の本数を繰り返し確認しています)
目次
タラバガニは本当にカニではないのか?検索意図とこの記事で分かること
見た目はまさに「カニ」なのに、実はヤドカリの仲間と聞いて驚いた方は多いでしょう。検索でも「カニ ヤドカリ の 仲間」といった意図が目立ちますが、結論を先に言うと、タラバガニは分類学上はヤドカリ下目に入り、形はカニでも系統はヤドカリ寄りと整理されます。
本記事では、なぜそう言えるのかを、分類の位置づけ、外見と解剖学的な違い、幼生の特徴、そして現場での簡単な見分け方まで丁寧に確認します。
- よくある誤解:見た目と名前のギャップ
「カニと名がつく=カニ下目」と直感しがちですが、学術的には別グループである可能性があります。 - この記事で確認する主要ポイント(分類、外見、幼生、観察法)
分類学上の根拠、脚が8本に見える理由、腹部の形や非対称性、幼生の類似性、現場での判別手順を網羅します。

なぜタラバガニはヤドカリ下目に分類されるのか(十脚目の分類概要)
タラバガニの位置づけは「節足動物門 甲殻綱 十脚目 ヤドカリ下目 タラバガニ科」で、カニ下目ではありません。京都大学瀬戸臨海実験所の分類資料は、タラバガニがヤドカリ下目に入ることを明示しており、専門的な見解として信頼できます(京都大学瀬戸臨海実験所「エビの分類」)。また、基礎知識として、十脚目はエビ・カニ・ヤドカリを含み、基本的に脚は5対=10本という枠組みが共有されます(千葉県立中央博物館「磯でみられる エビ・ヤドカリ・カニ」)。一般向けの整理としても、タラバガニはヤドカリの仲間である旨が広く紹介されています(Wikipedia「タラバガニ」)。
- タラバガニの分類:十脚目→ヤドカリ下目→タラバガニ科
系統上はヤドカリ側に置かれ、見た目の印象とは異なるグルーピングになります(京都大学瀬戸臨海実験所資料、Wikipedia)。 - 十脚目とは何か:エビ・カニ・ヤドカリを含む分類の概要
「脚は基本10本」という共通性を持つ大きなグループで、暮らし方や形態の進化で多様化しています(千葉県立中央博物館)。 - 名前に「カニ」が含まれる歴史的背景と混同の理由:
甲羅や歩脚の形が“カニらしい”ため各地で「〜ガニ」と呼ばれ、名称から分類を誤解しやすい事情が生まれました。
外見では分かりにくい:カニ下目とヤドカリ下目の違い(腹部・脚・幼生)
- 短尾類と異尾類:腹部の構造とメスの非対称性
カニ下目(短尾類)は腹部(通称ふんどし)が幅広く左右対称で甲の下に折りたたまれますが、ヤドカリ下目(異尾類)は腹部が細長く、種によってはメスの腹部が非対称になりやすい特徴があります。タラバガニ科もこの非対称性が現れ、ヤドカリ的な体制を色濃く示します。 - 脚の配列:なぜ8本に見えることがあるか(第5脚の縮退など)
十脚目は脚が5対=10本ですが、タラバガニでは第5脚が小さく甲の内側に隠れやすく、外からは「はさみ脚1対+歩脚3対」の計8本に見えます。実際は見えにくい第5脚が存在し、鰓室の手入れなどに使われます。 - 幼生期の比較:グラウコトエ期の類似性と系統的示唆
タラバガニ類の幼生は、ヤドカリ類と共通するグラウコトエ(Glaucothoe)期を経ることが知られており、発生学的にもヤドカリ下目との近縁性を示唆します。
現場で使える見分け方:脚を数える・腹部を確認する手順
市場や浜でサッと見分けたいときは、次の順で確認すると判断しやすくなります。筆者も産地取材の現場でこの手順を用い、短時間で「カニの仲間か、ヤドカリの仲間か」を見極めています。
- 観察ステップ1:甲羅と歩脚(前脚)を確認する
はさみ脚1対と歩脚3対がはっきり見え、合計8本に見えるなら要注意です。十脚目にはもう1対の脚があるはずなので、次のステップへ進みます。 - 観察ステップ2:腹側をめくって腹脚の有無と非対称性を見る
甲裏の奥に小さな第5脚が隠れていないか、腹部が細長くメスで非対称が強くないかを確認します。非対称性や隠れた第5脚はヤドカリ下目の重要サインです。 - 観察ステップ3:幼生や殻の特徴が分かる資料を参照する
産地の掲示や博物館・大学の資料で、幼生期の説明や分類表を合わせて確認すると確度が上がります。

よくある質問(FAQ)
- タラバガニは本当にカニじゃないの? 分類学上はヤドカリ下目に入るため、系統的にはヤドカリの仲間と考えられます。一方で形は強くカニに収斂しており、見た目はカニと言えるでしょう(京都大学瀬戸臨海実験所、Wikipediaの整理が参考になります)。
- カニとヤドカリの違いは何? 腹部の形と左右対称性、脚の使い方と第5脚の縮退、幼生期の違いが要点です。カニ下目は腹部が幅広く左右対称、ヤドカリ下目は腹部が細く非対称になりやすい傾向があります。
- 花咲ガニもヤドカリの仲間? ハナサキガニはタラバガニ科に含まれ、ヤドカリ寄りと紹介されます(tenki.jpの解説参照)。見た目はカニでも、系統はヤドカリ側に位置づけられます。
- タラバガニの脚はなぜ8本に見える? 十脚目の第5脚が小さく甲の内側に隠れるため、外見上は8本に見えやすいのが理由です。実際には5対=10本が揃っています。
- ヤシガニはカニ?ヤドカリ? ヤシガニはヤドカリ下目の仲間で、貝殻を持たず陸上生活に特化した大型種です。見た目の迫力に反して、系統はヤドカリ側です。
花咲ガニ・アブラガニ・ヤシガニ──カニに似たヤドカリの仲間を知る
タラバガニ以外にも、見た目はカニに近いのに系統はヤドカリという「カニに似たヤドカリの仲間」がいます。たとえばハナサキガニは、一般向けの解説でも「カニよりヤドカリに近い」と紹介されます(tenki.jp「タラバガニはカニじゃない !?」)。アブラガニもタラバガニ科として扱われ、形態はカニ状ですが系統はヤドカリ側に寄ります。さらにヤシガニはヤドカリ下目の代表格で、貝殻を脱して陸上に適応した進化の極端な例として知られています。 これらが「カニに見える」のは、堅牢な甲羅、発達したはさみ、歩脚の配置などでカニ型へ収斂進化しているためで、生活環境や捕食・防御のニーズが似ると形も似通う好例と言えるでしょう。
結論:見た目はカニでも、分類と解剖学的特徴からタラバガニはヤドカリの仲間と言える理由
分類学的根拠(十脚目ヤドカリ下目タラバガニ科)、外見に隠れた第5脚、腹部の形とメスの非対称性、幼生期の特徴などを総合すると、タラバガニは見た目はカニでも、系統はヤドカリの仲間と結論づけられます。市場や観察の現場では、次のポイントを押さえると迷いにくくなります。
- 重要ポイントの復習:分類はヤドカリ下目/脚は5対だが第5脚が隠れやすい/腹部は細く非対称が現れやすい/幼生にヤドカリ類と共通する段階がある。
- 次のアクション:現物に触れる機会があれば甲裏の奥や腹部をそっと確認し、あわせて博物館・大学の資料に目を通すと理解が深まります。

参考
- エビの分類(京都大学瀬戸臨海実験所) – https://www.seto.kyoto-u.ac.jp/shirahama_aqua/wp-content/uploads/2023/03/ebi-bunrui.pdf
- 磯でみられる エビ・ヤドカリ・カニ(千葉県立中央博物館) – https://www.chiba-muse.or.jp/UMIHAKU/cms/wp-content/uploads/2025/03/09b14e63b8ce94a8ad6c7d4b92656e19.pdf
- タラバガニ(Wikipedia) – https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BF%E3%83%A9%E3%83%90%E3%82%AC%E3%83%8B
- タラバガニはカニじゃない !?(tenki.jp) – https://tenki.jp/suppl/romisan/2016/04/13/10961.html








