カニはどう呼吸する?陸と海のしくみ
最終更新日: 2025-12-27
執筆: kani-tu.com編集部(海産物ライター/磯場観察と家庭飼育の実体験に基づく解説)
目次
カニはどう呼吸する?陸と海での違いを簡単に説明

この記事で分かること
- カニの呼吸器官は「鰓(エラ)」で、陸上種も海水種も基本は同じしくみです。
- 海のカニは鰓室に海水を循環させ、陸のカニは鰓室内に保持した水分を再利用して酸素を取り込みます。
- 泡を吹くのは呼吸・環境ストレスのサインで、観察や飼育時にできる応急対応があります。
鹿児島大学総合研究博物館の解説によれば、すべてのカニ類は鰓でガス交換を行い、鰓室という空間を酸素を含む水で満たして呼吸します。陸上生活に適応した種類でも、この「鰓呼吸」が基本である点は共通です(鹿児島大学総合研究博物館)。
陸上カニと水中カニの代表的な違い
- 水中生活が中心の種類: 口器のポンプで海水を取り込み、鰓室内を常に循環させて効率よく酸素を取り込みます。
- 潮間帯・陸上の種類: 体内の水分や一時的に溜めた水を鰓に当て、空気に触れさせながら再利用して呼吸を維持します(鹿児島大学の研究報告でも、体内水分を用いた呼吸維持が示されています)。
出典: 鹿児島大学総合研究博物館の解説(「水から陸へ 鰓呼吸するカニたち」)

鰓(エラ)はどこにある?カニの呼吸器の位置と仕組み
鰓(エラ)の位置と外部から見える目印
カニの鰓は、甲羅(背甲)の左右の内側、脚の付け根の奥にある「鰓室(鰓箱)」に収まっています。外からは見えませんが、口の横(口器の周辺)に入水孔・出水孔があり、ここから水や空気に触れた水分が出入りします。甲羅の側面は鰓室を覆う側板で、地域や分野によっては鰓周辺部を「ガニ(ガニ部)」と呼ぶことがあり、ここが鰓を守る“フタ”の役目を果たします。
鰓の基本構造と酸素交換の役割
鰓は薄い板状の「鰓葉(フィラメント)」が重なった構造で、表面積を大きく確保し、そこに流れる血リンパと外部の水(または水分)との間で酸素と二酸化炭素を交換します。鰓室の湿り気が失われると鰓葉が乾き、ガス交換効率が急激に落ちるため、湿度の維持がカギになります。
水中での鰓呼吸の仕組み:鰓室と水の循環で酸素を取り込む流れ
鰓室に水を取り込む仕組み
口器の一部にある扇状のポンプ(スカフォグナシテ、通称「口脚のうちわ」)が拍動し、入水孔から水を吸い込み、鰓室内へ送り込みます。これにより止水ではなく、常に新しい水が鰓葉に触れる状態をつくります。
水の流れとガス交換の流れ
- 吸入: 入水孔→鰓室へ水が入り、鰓葉に新鮮な酸素を供給します。
- 交換: 鰓葉表面で酸素が血リンパへ拡散し、二酸化炭素が水側へ移動します。
- 排出: 使用後の水は出水孔へ導かれ、外へ排出されます。
鹿児島大学の研究では、スナガニ類が体内の水分を鰓へ効率よく当てる循環システムを持ち、条件次第で陸上でも呼吸可能なことが示されています(鹿児島大学学位論文「スナガニ類の呼吸水循環と鰓掃除機構」)。
鰓掃除や鰓維持のメカニズム
砂粒や泥が鰓葉に付着するとガス交換が妨げられます。スナガニ類では、流路設計や微細な動きで鰓葉を洗い流す「鰓掃除機構」が働き、鰓室内の水を循環させながら汚れを除去すると報告されています(鹿児島大学学位論文)。
陸上で暮らすカニの工夫:呼吸用の水を再利用して空気から酸素を得る方法
呼吸水の再利用とは何か(取り込み→露出→再循環)
陸上適応の進んだカニは、鰓室に保持した水分をいったん出水孔から外へ出し、空気に触れさせて酸素を溶け込ませ、再び鰓室へ戻して使います。水を循環させる発想は水中と同じですが、酸素の供給源が「空気に触れた水」へと切り替わる点が特徴です(鹿児島大学学位論文でも、体内水分の活用が示唆されています)。
泡を吹く行動のメカニズムと意味
口元から泡を吹くのは、唾液や鰓室の水を細かい泡にして空気と接する表面積を増やし、より多くの酸素を溶け込ませるためと考えられます。学校教育の調査資料でも、陸上で泡を吹く行動は水分を空気に晒して酸素を取り込む工夫であり、同時に酸素不足(環境ストレス)のサインになり得ると整理されています(静岡県教育委員会の調査資料)。
スナガニなど潮間帯カニの特殊な適応例
干潮時に長く砂上で活動するスナガニ類は、鰓室の水分を維持・循環し、微細な砂を掃除しながらガス交換を続けます。砂地での掘削・通気性の高い巣穴、日中の高温時は穴で待機するなどの行動適応も、鰓の乾燥や過熱を防ぐ合理的な戦略です(鹿児島大学学位論文)。
カニが口から泡を吹くのは危険サイン?観察時の見分け方と応急対応
泡=酸欠のサインの理由
泡は酸素取り込みの工夫である一方、強い連続的な泡立ちは「鰓室の水が不足」「温度が高く溶存酸素が低い」「水質悪化で鰓がうまく働かない」など、呼吸困難の兆候であることが多いです。飼育現場でも、出水孔から水を出して空気に触れさせ、再利用する行動が観察され、これは酸素不足への対処行動と解釈されています(アクアリウムの飼育記事の知見)。
泡が見られたときにまず確認すること(湿度・水質・温度)
- 湿度: 鰓室が乾かない湿度か(飼育容器内の乾燥を避ける)。
- 水質: アンモニア・亜硝酸、塩分、pHが急変していないか。
- 温度: 直射日光を避け、温度上昇で溶存酸素が低下していないか。
すぐできる応急処置(湿度保持・換気・酸素供給)
きれいな海水・汽水・淡水(種類に合わせる)を少量加え、鰓室が湿る環境をつくる。エアレーションや表面攪拌で酸素を増やす(溺れない浅さを維持)。容器を涼しい場所に移し、通気と温度管理を徹底する。
出典: アクアリウム・飼育者向け記事(「カニが口から泡を吹くのは呼吸困難の危険なサイン」)
よくある質問:カニの呼吸Q&A
- Q. カニは陸上でどうやって呼吸するの?
A. 鰓室に保持した水分を空気に触れさせ、酸素を溶かした水を再び鰓に当ててガス交換します。泡を使う行動もその一部です。 - Q. カニが泡を吹くのはなぜ?
A. 水分を泡状にして空気との接触面を増やすためで、酸素不足や環境ストレスのサインである場合があります(教育機関の資料でも指摘)。 - Q. カニのエラはどこにある?
A. 甲羅の左右内側にある鰓室の中です。口の両脇に入水孔・出水孔があり、ここから水が出入りします。 - Q. カニは水なしでどれくらい呼吸できる?
A. 種類・温湿度・個体差で大きく変わります。潮間帯種は湿り気と涼しさが保てれば長時間耐える例もありますが、乾燥や高温下では短時間で弱ります。 - Q. スナガニの呼吸は他と違うの?
A. 基本は鰓呼吸で同じですが、鰓室の水循環や鰓掃除機構が発達し、砂地での生活により適応しています(大学の研究報告)。
飼育や観察で役立つ呼吸ケア:水無しでも呼吸できる時間と管理のコツ
水無しでどれくらい生存・呼吸できるかの目安
「カニは水がなくても呼吸できる」わけではなく、「鰓が湿っていれば一定時間は呼吸を維持できる」と理解するのが安全です。潮間帯の種でも乾燥・高温・低酸素が重なると急速に消耗します。観察・搬送は短時間に留め、必ず湿り気を確保しましょう。
短時間の保護方法(湿ったシート・通気・温度管理)
- 手順1: 種に適した水(海水・汽水・淡水)で湿らせた不織布やキッチンペーパーを敷き、鰓室が乾かない湿度を確保します。
- 手順2: 通気孔のある容器で換気を確保し、直射日光を避けて20℃前後の涼しい場所へ移動します。
- 手順3: 長時間になる場合は浅い水場を用意し、溺れないよう段差や上がれる足場を必ず設けます。
長期飼育で気をつけること(水質・エラの健康チェック)
- 水質: アンモニア・亜硝酸の毒性や急激な塩分・pH変動に注意し、部分換水で安定を優先します。
- 鰓の健康: 泡の連発、口元の頻繁なかき出し行動、元気のない上陸・降水の繰り返しは要注意サインです。底砂の粉じん対策や濾過・通気で鰓への負担を減らしましょう。
- 温湿度: 乾燥と高温は大敵です。フタで保湿しつつ、結露・酸欠を避けるための換気も両立させます。
筆者メモ(体験知):市場から持ち帰る短時間の輸送では、濡れ布と保冷剤で「湿度+低温」を両立させると落ち着きやすく、泡の量も明らかに減る傾向があります。
学んだことの整理:カニの呼吸で覚えておきたい5つのポイント
重要ポイントの短いまとめ
- カニは海水・陸上種を問わず鰓で呼吸します。
- 鰓は甲羅の内側の鰓室にあり、湿り気がないと機能が落ちます。
- 水中では鰓室に水を循環、陸上では水分を空気に触れさせ再利用します。
- 泡は酸素取り込みの工夫であり、同時に酸欠や環境ストレスのサインになり得ます。
- 観察・飼育では「湿度・通気・温度・水質」をバランスよく管理することが肝心です。
実際に観察・飼育するときのチェックリスト
- 鰓室が乾かない湿度があるか。
- 種に合った塩分・pHと安定した水質か。
- 容器の通気と浅い避難場所(溺れ防止)があるか。
- 高温・直射日光を避け、温度は適正か。
- 泡の増加や元気の低下など、サインを見逃していないか。









